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出町千鶴子
 
 

 

大熊猫紀行2007

新聞掲載

パンダ
2007/4/14毎日新聞夕刊
リベラル21
2007/5/9毎日新聞夕刊

展覧会情報

Mongolia

 

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PANDA'07
 

 友人と2人、中国・臥龍の大熊猫研究所へ飼育ボランティアの旅に行ってきました。
 「壮壮」「張可」「張龍」の3頭の厩舎とお庭のお掃除とお食事(ゼン竹と大熊猫のパン、りんごと人参)の準備のお手伝いです。
私の掌にも一掴みのパンを乗っけてくれました。大熊猫の鼻息や涎の温度、お口の周りの柔らかな毛の感触が嬉しくて、幸せ笑いが止まりませんでした。掌に残ったパンを舐めてみました。全然美味しくありません。匂いも、全く美味しそうではありません。しかし、大熊猫達は、皆、美味しそうに食べています。なので、私も毎回ご相伴を戴きました。
 このパンの原料は、大根・人参・りんご・トウモロコシ・大豆・笹など。大熊猫達の栄養総合食のようなものでしょうか。此処は、大熊猫の王国です。彼らは、この広大な敷地内に、臥龍一立派なパン工房を持っています。

 お手伝いの初日、「華美」が発情したと研究所は騒然となりました。大熊猫の生態系と棲息環境の保全が使命の研究所です。しかも、大熊猫の受精期間は、1年365日の内ホンの2日間だけなのだそうです。先生達は会議に忙しくなり、そして、肖毅先生の自然妊娠の為の訓練が始まりました。未来の地球のために、華美と先生達が一致協力するようにして一所懸命辛抱強く頑張っていました。これまで、「自然の営みに、人間如きの営みが勝てる訳が無い。」と思っていましたが、此処では、自然の営みの中で、誠実に全力で取り組む人間の営みが生かされようとしているのでした。
 10日ほど前に誕生した赤ちゃんパンダ(Jinyの赤ちゃん)の人口授乳の様子も見学しました。
 赤ちゃんパンダ(体重100g)は、これから豚になるのか犬の仔かネズミか大熊猫になるのか、、、、。全く予想が出来ない程の生まれたてほやほやに見えましたが、小さいながらも魂の宿る生命の「生きるぞ」の力強さは圧倒的でした。
 
 先生達が会議で忙しい合間に、私達は、昨年の8月に生まれた「依宝」と記念写真を撮ってもらいました。依宝はミルクと笹とお陽様の匂いがしました。2歳前の仔大熊猫「希望」「文文」「比力」と遊ばせて貰いました。文文は、ずっと私の左手を握っていてなかなかサヨナラが出来ないので、また、来年来る事を約束してしまいました。翌朝に、私の左手の薬指の下に痣が出来ていました。ついつい、友人に見せびらかしてしまいました。
 
 毎日、元気いっぱい、気合の唸り声を上げながら相撲を取って遊んでいるのは、<円円>と<団団>です。良く食べて良く遊ぶそして良く食べて良く眠り良く食べる、研究所で一番の健康優良児の2頭です。大熊猫とは思えない素早さで木登りをして、グルングルンと鉄棒の前回りで降りてきます。そして、お食事の時間、パンを貰うと大切そうに抱えて、ちょっと傾斜の草の上に仲良く腰掛けて、嬉しそうにもぐもぐしています。
 純粋な存在は、いつでも地球の上の何処に居ても、永遠に天真爛漫です。

 臥龍は、成都から車でミン江に沿うようにして4〜5時間、もう直ぐチベット民族自治区という海抜2000メ−トルの所にあります。此処は、空気が美味しい。研究所の中は、温かな春の陽が集まっていて、ミン江のせせらぎと小鳥の声と大熊猫のホキホキと笹の茎を食べる音が、直ぐ其処にある空に木霊し合っています。研究所の周りをぐるりと囲むようにして重なる山々の稜線は、不ぞろいの木々の形で縁取られています。この森は、動植物が調和して共生する豊かな森でした。
中国政府は、この森を大熊猫の故郷棲息地として、「世界生物圏自然保護区」と指定しています。昨年には、「世界自然遺産」に認定されました。中国政府が、如何に、大熊猫の生態系の保存とその棲息環境の保護と安全の為に渾身の力を振り絞っているかが、研究所の先生達とこの森を眺めれば、一目瞭然です。
 しかし、打って変わって、北京・上海・坑州の空気の不味さが気になります。毎年毎度訪れる度に、お水も不味くなって来ています。昨年の秋、北京の昼間の太陽の色が気になりました。「黄砂のせい」と教えて貰いましたが、エジプトの昼の太陽とは徹底的に違っていました。このアンバランスを、これから、中国がどのように軌道修正して行くのか。世界がどのようにして一致団結協力して、保全・利用・調和を人類の大いなる使命としていけるのか。地球温暖化の問題は私たちの深刻な課題です。
 森羅万象の営みの中の生きるものに、分け隔てはありません。例えば、大熊猫の生態系と棲息地の環境保全は、しいては、南極の氷とペンギンを護ることであり、北極の白熊を護ることであり、ロッキ−山脈の雪山と狼を護ることであり、海の水温と生物を護ることであり、人類を護ることであり、そして、未来の子ども達の夢を護る事だと思います。

滞在中、毎日のように雪が降りました。雪の結晶が6角形のかたちのまま、ふありふわりと降りてきました。

 此処で、私はせっせとたくさんのスケッチをしました。
幸運だった事は、僅かな期間に、大熊猫の妊娠・出産・育児・成長を目撃できた事。
そして、私は、大熊猫の匂いや弾力と体温、肉球の仕組みと関節の具合や力点の在る所鼻息の暖かさ、大熊猫達が最も快適とする森の風景を教えてもらいました。晴れて堂々と大熊猫の絵を描かせてもらえる事を、とても嬉しく、感謝します。
 お礼に、私はたくさんの大熊猫の絵を描きたいと思います。

 そういえば、研究所の先生達、大熊猫達のことを「マオマオ」言っていました。
なんだか、ミルクと笹の匂いが懐かしいです。

大熊猫満喫の旅ムービー

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