一日がかりの果ての、ベルギーブランケンベルグ。旅の始まりの記念すべきその日にして、私達は、最悪の事態に気付く。
・・・このホテルに10日間の逗留は、私の気合と体力に毒だ。
徒然なる侭に!
"Laisser eclater sa Colere!"(=爆弾発言をする!)
最悪である。お名前と料金は****(4ツ星)。環境(狭い!殺風景!)とサーヴィスは、日本のビジネスホテル以下である。と、云ったら。きっと!日本ビジネスホテル協会が怒るに決まっている。
フロントは、常に不在である。「用が足らん!ではないか。」
海から200mのはず!が、歩いて10分はかかる。
「絵を描くまえに、私の気合と体力は一気に消滅してしまうではないか。」
取り敢えず!私の"Ou est NEKO?"(ねこは何処ですか?)は、"Ou est
l'hotel?"に摩り替ったのであった。。・・・トホホ!
「よくあるハナシ」は、摂り立て、私には必要ない。
今時、「シテヤラレタ」の女の泣き寝入りは、流行っていないだろう。
2日後、海まで100mの快適な、しかもプールもついている!ホテルに、私達は、引越しを果たす。
ブランケンベルグの最初の朝に、届いた教会の鐘の音。見上げれば、両手を拡げた笑顔のイエス様と目が合った。青い空の太陽と真っ白い雲が眩しくて、私はウィンクをしてみた。善い予感がする。
なんの気無しに、その広場の真ん前のホテルを覗けば。すごいです。
上品で、古めかしい贅沢なロビーが見えた。アガサ・クリステイの推理小説の中で、時々、ホテル内でも殺人事件が発生する。そんな時、ミス・マープルが編物をして、紅茶を戴いたあげくの居眠りをする、あの「談話室」である。感動である。
フランドル絵画が架けてある。ルーヴル顔負けの彫像がその肉体美を誇っている。感動である。
なんの気無しに、・・・取り敢えず、お値段は?
おー!ダマシの****より安いではないか!実に感動的ではないか。
「よし!決まりだ。ここに決定でしょう?。大中君。」
私は、同行者の友人に決意表明をする。
「大中さん、よろしくお願いします。・・・どうぞ!」
流暢な英語を話す大中さんは、フロントへと交渉に挑む。
思えば!ヨーロッパの高級リゾート地のこの町に、アジア人は、私達だけである。誰もが!
「どうして、君らがここに居るの?」
あやしいアジア人の私達に、ホテルのマネージャーも訝しげであった。
しかし、ここに決めた!私達は、怯まない。
私は、猫のテレパシーと笑顔を送りつづけた。
大中さんは、ありとあらゆることを流暢な英語で話す。例えば、"私達は、このホテルがとても気に入った"こと、"彼女は、(私のことだ!)アーチストで、私達は、クノックのアートフェアのために来ている"ことなど。
「解りました。今のホテルをキャンセル出来ますか?」
「勿論です。ありがとうございます。」
私達は、30分後に正式な約束をする事を約束して、それからが、猛ダッシュの行動であった。私は、不在フロントの呼びリンをたたきまくった。
「子どもじゃないんだから。」
流暢な英語を話す、大人げのある大中さんが窘める。
そして、言った。
「私達の予定に、変更が出来てしまいました。残念ですが。明日の朝、早く出発をしなければなりません。よろしければ、今、会計を済ませたいのですが。キャッシュでお願いできますか。」
大中君は、英語だけではなく断り方も、実に流暢であった。この大人らしい如才の無さに、夫のHiROSHiも惚れたのであろう。
感動であった。
その日の夜、(と、云えど。10時頃まで明るい。)晴れ晴れとした気分で、遠すぎる海に出かけた。明日から、1、2分かと思うと、その遠さも愛おしく思う。海辺の町の3日目にして、悠悠と海を臨んでいる自分に気付く。
幼い子ども達が砂浜で遊んでいる。4人家族の、夫婦が仲良く凧上げに興じて、5才程の息子はその間を右往左往し、ベビーカーの小さい人は両腕を夕日に掲げて泣いている。
海を臨む通りには、ギャラリーや高級店、レストランが横並びにして、行き交い、憩う人達の笑顔がこだましている。
この国のこの町が、きっと、「世界でいちばんの安全地帯だ」と、健康でお行儀の好い子ども達の笑顔に、そう、思った。
翌朝。スケジュールに変更のあった私達は、教会の前に立つ。
「大中君。どうせなら、私はあすこの部屋が好い。 目の前に、毎日、教会が見えるでしょう?」
そして、偶然にも、私達はその部屋を獲得したのである。
「出町さん。思いのままね!」
大中さんに、この度、はじめて誉められる。
猫は、自分の居場所にこだわる。
猫を愛する者の特権と標するべきこだわりである。
私達は回顧する。
「願えば、叶う。信じれば叶う。誠意で叶う。」
「おー!なんと、素晴らしい。幸先のよいスタートではないですか。」
嬉しい私は、すぐさまプールで泳いだ。
これから、アートフェアのレセプションだというのに。
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